自然治癒力って、どんだけ!?

サルファ剤、忘れられた奇跡』中央公論新社、トーマスヘイガー著。

医学博士、西原克成先生に勧められて読んだ本ですが、驚愕しました!

私たち、代替医療に関わる人って、化学物質に比較して、自然治癒力がいかに素晴らしいか、万能か、といったことを強調するきらいがありますが・・・。

そんなノンキなこと、言ってられるのは、抗生物質さまの存在があってこそ!と思い知らされました。

こちら、サイエンス・メディカルライターのトーマスヘイガーが、後に、ノーベル賞を受賞することになる天才的化学者ゲルハルト・ドーマクの人生と研究の軌跡をたどりながら、サルファ剤、抗生物質の誕生した背景を科学的な視点で追った一冊です。

1924年、と言えば、まだ今日から100年も経っていないのですが・・・

アメリカ大統領の子息、10代の健全な若者が、テニスした際の足の血豆が元で、全米が見守る中、5日後に亡くなりました。

世界的名医が集まり、当時の最先端の治療が施されたのにも関わらず!

原因は、連鎖球菌による感染症だそうです。

連鎖球菌といえば、今では、幼児たちがよくかかる、取るに足らない細菌、という認識ですよね。

100年前までは、多くの生命を奪った“悪夢”だったそうです。

戦場では、負傷兵の傷口から、成功したかに見える手術後の縫合部から、ガス壊疽となったらもう打つ手がなかったそうです。このあたり第一次世界大戦の描写は、壮絶です。

サルファ剤の登場により、こうした状況が著しく改善されたのは、パールハーバー(真珠湾攻撃)からだそうです。こういう側面から世界史を見たことがなかったので、ある意味、新鮮です。

戦場だけでなく、産婦を襲う産褥熱も凄まじかったようです。同じ女性としては、やるせない感いっぱいです。

19世紀までは、原因がわからなかったので、亡くなった産婦の解剖をした医師や学生が、骨盤内の臓器をポケットに入れて持ち歩き、そのまま手も洗わず、素手で別の患者の出産に立ち会ったり!

衛生観念が発達してなかったようですね、このあたり、日本ではどうだったのでしょうね。

そんなわけで、医師や学生のいる病棟に多発し、助産婦の担当する病棟、または自宅出産では産褥熱発生率が比較にならないほど、少なかったとか。

1920年代になると、細菌が原因ということはわかってきたものの、それに太刀打ちする術がない、という状態だったそうです。

こうした死を意味する恐ろしい病に、多く連鎖球菌が関っているそうです。

連鎖球菌だけでなく、結核、肺炎、髄膜炎、猩紅熱、丹毒、などなど。

この本では、そうした停滞していた医学界を切り開いたサルファ剤の開発、そしてその後の抗生物質の登場などを、さまざまな研究者や製薬会社の思惑などをからめ、巧みに描かれていきます。

こうした重い歴史を知ると、いかに私たちの肉体は、細菌に対して脆弱で無力なのか、思い知らされました。

“自然治癒力”などというものは、細菌に対抗できる抗生物質の存在があってこそ、初めて口にすることのできる曖昧なものなのかもしれません。

抗生物質、なにかと悪者にされがちですが、何事も大きな視点で謙虚に見る姿勢が大切かと思います。

Follow me!